彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
支配人直々に案内された部屋は予想外のものだった。

寝室らしき部屋が2つ。他にリビングルームとダイニングルーム。ジャグジー付きの開放感溢れる浴室。
とても広いリビングの隣には白い天蓋の付いた広いテラスがあり、キャンドルの灯りが揺れている。テラスのソファーに座れば星空をゆっくり眺める事ができるだろう。

やはり別世界に紛れ込んだようだ。

「寝室のクローゼットにお着替えを準備させていただきました。どうぞ」

支配人がそう言い、私は副社長に笑顔で促されて着替えるため、その寝室に入った。

クローゼットの中にはワンピースやブラウス、スカート、部屋着、下着などがこんなに必要?というほど入っていた。ドレッサーには化粧品が並び、パンプスやサンダル、帽子まである。
ここは一体どういう所なんだろう?

あまりにたくさん並んでいるから選べない。
夕食はどんなレストランに行くのだろう。ドレスコードがあるのか、カジュアルなレストランなのか。

しばらく悩んで、困ってしまい結局、そのままリビングに顔を出すと、副社長はすでに着替えた後でソファーで寛いで山内支配人と話をしていた。

「どうしたの?」
私がまだスーツ姿でいることに驚いたようだ。
「気に入らなかった?」

「とんでもない!」慌てて首を振った。
不思議そうな顔をする副社長に
「たくさんあり過ぎて何を選んだらいいのかわからなくて」
と正直に言うと、副社長は嬉しそうな顔をした。

「俺が選んでいい?」
と立ち上がる。もうお任せしてしまった方が楽だと思う。
私がコクンとうなずくと私の肩に手をかけて一緒に寝室に入った。
山内支配人がにこやかに見送ってくれているのが気恥ずかしい。

副社長が何着か手にとって私に当てたりしながら選んだのは小さな花柄模様のクリーム色のワンピースだった。
ふわっと軽そうな素材だ。

「リビングで待っているよ」
軽くハグをして副社長は寝室を出て行った。

少しハグされただけなのに身体が熱くなった。
いつものBarで飲んで話をする時に触れられたことは全くなかった。
それが今日は違う。
副社長の心境の変化なんだろうか。
……どんな?



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