彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
現実
夢は所詮夢。
いずれ目覚めの時が来る。
二人きりで甘く濃密な時を過ごし、そろそろチェックアウトの時刻が近いという頃だった。
副社長の携帯電話が何度も鳴っていたようだ。
それまでもマナーモードになっているものの緊急連絡がないか副社長は私に気を遣いながらたまにチェックしているようだった。
「ちょっとごめん」
私に断りを入れてスマホを持って寝室に入っていく。
私はテラスに出て森を眺めて待つことにしたのがいけなかった。
寝室の窓が開いていたらしく、副社長の声が聞こえる。慌ててリビングに戻ろうとしたのに話が聞こえてしまった。
「今夜は帰るから。帰ったら聞いてやるから待ってろよ。わがまま言うなって」
どう考えても仕事の電話ではないよね。
男友達との会話でもないだろう。
相手は女性のよう。
妹がいるとは聞いていない。確か社長と二人兄弟。
では・・・誰?
おうちで待っている誰か。
副社長のプライベートはほとんど知らない。
知っているのは独身だってこと。
もしかしたら、家で待ってる女性がいるのかもしれない。
また、薫の姿が脳裏によぎった。
そっとリビングに戻りソファーに座り副社長を待った。
「早希、待たせたね」
副社長は笑顔で寝室から出てきた。
「いいえ」私も作り笑顔で返す。
「クローゼットの荷物はそのままでいいから出ようか」
沢山の衣類に化粧品。
もちろんいただくつもりはさらさらなかったけど、見た感じどれも新品だったこれは一体どうするのだろう。
電話の相手が使うのだろうか?
誰かここに連れてくる次のお相手が使うのだろうか?
ううん。私には関係がない。気にしてはいけない。
「はい」
差し出された手を取って豪華な部屋を出た。
現実世界に帰る時間だ。