彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
それから一気に仕上げて部長のデスクに置いた。
まだ高橋のチームの数人が残っている。
「ね、高橋。私明日から有給休暇なの。部長は知ってるけど、後よろしくね」
「珍しいな、いきなり有給とるなんて。なんかあったのか?」
「うん、ちょっと実家に行ってくるわ」
後ろでひとまとめにした髪を下ろしてメガネを外して帰り支度をしながら話しかけた。
「お先に」
「おう。お疲れさん」右手を挙げて高橋は返事をした。
さぁ、私は副社長室に向かわなくちゃ。
時刻は20時半。
既にというか当たり前だけど役員フロアは静かだった。
副社長には20時を過ぎてしまうことは伝えてあったので、連絡しなくてもいいからとそのまま副社長に来るように言われていた。
絨毯でヒールの音が響かないことに感謝しながら副社長室を目指した。
秘書室はまだ明るい。中の様子はわからないけれど、誰かまだいるらしい。
副社長室の入口は空いていた。
副社長秘書さんの姿は見えない。秘書さんのデスクがある部屋の先のドアの向こうに副社長がいる執務室がある。
中に入ると執務室のドアが10センチ程開いていることに気が付いた。
このままノックすればいいかなと思って近づいて行くと、ぼそぼそとした人の話し声が聞こえてきた。
副社長以外に誰かいるらしい。
悪いことをしてるわけじゃないけど、どうしよう。困った。
後で出直そうと背中を向けた途端、はっきりとした女性の声が聞こえた。
「ひどい」
え?『ひどい』って何?仕事の話じゃないよね。今のはそんな口調じゃない。
「大丈夫だよ」
今度は副社長の声がした。
その声に驚いて振り返ったら、開いたドアの隙間から部屋の中が見えてしまった。
副社長のデスクのそばで副社長が立っていて、その胸には女性がしがみつくようにしていた。
相手は薫。
全身の血液がどくどくと逆流してくるような感覚に襲われる。
副社長は薫に「泣くなよ。気にしなくて大丈夫だ」と言って抱きしめて背中をさすっている。
副社長の胸に額を付けるようにして泣いているようだ。
心臓がバクバクと大きな音を立て始め、副社長達がいる執務室に聞こえそうだ。
全身が氷のように冷えていく。
胸が痛み息苦しさを感じる。
まだ高橋のチームの数人が残っている。
「ね、高橋。私明日から有給休暇なの。部長は知ってるけど、後よろしくね」
「珍しいな、いきなり有給とるなんて。なんかあったのか?」
「うん、ちょっと実家に行ってくるわ」
後ろでひとまとめにした髪を下ろしてメガネを外して帰り支度をしながら話しかけた。
「お先に」
「おう。お疲れさん」右手を挙げて高橋は返事をした。
さぁ、私は副社長室に向かわなくちゃ。
時刻は20時半。
既にというか当たり前だけど役員フロアは静かだった。
副社長には20時を過ぎてしまうことは伝えてあったので、連絡しなくてもいいからとそのまま副社長に来るように言われていた。
絨毯でヒールの音が響かないことに感謝しながら副社長室を目指した。
秘書室はまだ明るい。中の様子はわからないけれど、誰かまだいるらしい。
副社長室の入口は空いていた。
副社長秘書さんの姿は見えない。秘書さんのデスクがある部屋の先のドアの向こうに副社長がいる執務室がある。
中に入ると執務室のドアが10センチ程開いていることに気が付いた。
このままノックすればいいかなと思って近づいて行くと、ぼそぼそとした人の話し声が聞こえてきた。
副社長以外に誰かいるらしい。
悪いことをしてるわけじゃないけど、どうしよう。困った。
後で出直そうと背中を向けた途端、はっきりとした女性の声が聞こえた。
「ひどい」
え?『ひどい』って何?仕事の話じゃないよね。今のはそんな口調じゃない。
「大丈夫だよ」
今度は副社長の声がした。
その声に驚いて振り返ったら、開いたドアの隙間から部屋の中が見えてしまった。
副社長のデスクのそばで副社長が立っていて、その胸には女性がしがみつくようにしていた。
相手は薫。
全身の血液がどくどくと逆流してくるような感覚に襲われる。
副社長は薫に「泣くなよ。気にしなくて大丈夫だ」と言って抱きしめて背中をさすっている。
副社長の胸に額を付けるようにして泣いているようだ。
心臓がバクバクと大きな音を立て始め、副社長達がいる執務室に聞こえそうだ。
全身が氷のように冷えていく。
胸が痛み息苦しさを感じる。