彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
新幹線のホームで姉に最終の新幹線で今夜のうちに帰宅すると連絡をしたところ、姉は予想以上に喜んでくれた。

「早希、ありがとう。本当に助かる」

「いきなりだから有給休暇3日間しか取れなかった。ごめんね。一度帰って週末にまたそっちに行くから」

「うん、うん。ごめんね」

「お姉ちゃん、いいってば。じゃ、後でね」

新幹線に乗り込みひと息ついた。平日の遅い時間の車内は空いている。大きなため息をついてもう一度スマホを取り出した。
副社長から着信とメールが入っている。

『林から受け取ったよ。待っていたから直接渡して欲しかったな。早希、今どこにいるの』

メールを読んでとても嫌な気分になった。胸がざわざわとする。

2人が抱き合っているあの部屋にどんな顔をして入って行けばよかったというの?
副社長の何でもないような文面にいらっとする。
全くもって彼の意図がわからない。

返信はどうしたらいい?このまま無視したいけど、相手はわが社の副社長。社会人として無視していいはずがない。

『残業後に急用ができてしまい、たまたま出会った林さんにお願いしてしまいました。申し訳ありません』

やっとのことでメールを打って送信ボタンを押してそのまま電源を切った。
これに返信が来るかどうかはわからないけれど、もう副社長とやりとりはしたくなかった。

顔を上げると新幹線の窓からチラッと東京タワーが見える。

それはいつものようにオレンジ色の暖かい光に包まれているけれど、やっぱり私にこの風景は似合わないらしい。

稔と里美の姿を見た日と同じ。東京タワーは私によそよそしい。

私の憧れの存在は見ているだけで何年たってもちっとも手が届かない。

私の居場所はどこにあるんだろう。いつになれば、東京タワーの夜景が似合う女性になれる?
どうしたらずっと私は誰かの唯一の存在になれる?

私には一生無理?

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