彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
新幹線に乗りスマホを開くと、やはり副社長からのメールが入っていた。
『今日こちらに戻って来るのなら、少しでもいいから会えないだろうか』
まただ。
副社長はどうしてしまったのだろう。
副社長には薫という特別な女性がいるのだから、私に構わないで欲しい。
『明日から出勤ですし今日は疲れているので休ませて下さい』
素っ気ないメールで失礼だろうか。でも、本当に会いたくない。
副社長からすぐに返信がきた。
『近いうちに一度会って欲しい』
『お互いの都合が合えばお願いします』
私はもう副社長に会うつもりはない。
誘われても断ればいいのだ。愛人も二股もセフレもごめんだ。
由衣子に連絡をとり、いつもの居酒屋で会うことになった。
先に着いた私はいつかの時のように由衣子を待たずに生ビールを一気に飲み干した。
お代わりを頼んでいると由衣子が来た。
「なあに、今日もやさぐれてんの?」
由衣子は笑いながら私の正面の椅子に座る。
「そうかもね」
ふふっと自嘲的な笑いが出た。
「え、ちょっと。お母さんそんなに悪いの?」
焦った様子で由衣子が目を見開いた。
「あ、違うよ。母は大丈夫。でもね」と初めて姉の事情を詳しく話した。
「それは大変だね。これからの生活もあるし」
「うん。だから放っておけないの。ね、転職って大変かな」
「え?早希、会社辞めるつもり?」
「うん。選択肢のひとつ。地元企業に再就職して姉を手伝おうかなって思い始めた」
「えー、やだ。さみしいじゃん。辞めないでよ」
「私も辞めたいわけじゃないよ。でもね、このまま姉を放ってはおくのはどうかと思うの。家族として」
またビールを飲み干した。
私たちが飲んでいる近くの半個室からにぎやかな声が聞こえてきた。数人での女子会らしい。
このお店は隣との間は薄い壁で通路側は巻き上げ式のすだれで仕切ってあるから別のグループの顔は見えない。
「もしかしてあそこの女子会グループってうちの秘書室の人達じゃない?」
由衣子がささやいた。
「私もそうかなと思ったわ」
漏れ聞こえる話から秘書室の役員付ではない秘書達のようだ。
「ねぇねぇ、最近、康史副社長って雰囲気変わったわよね」
「あー、私もそう思った。結婚近いって噂もあるじゃない。だからかな」
「え?相手は誰?」
「知らないけど、大企業の副社長相手なんだからいいトコのお嬢さまでしょ」
「そうそう、旧財閥系のところからお見合いの話が来てるらしいわよ」
「そうよね。あ、お嬢さまっていえば、薫もお嬢さまだって知ってた?」
「あ、アレでしょ?専務だかなんだかのうちの役員の親戚って話でしょ」
「あら、私は取引先の社長の娘って聞いたわよ」
うるさく騒いでいるわけじゃないものの彼女たちの会話は丸聞こえだ。
あまり聞いていて気持ちがいいものではない。
「由衣子、お店変えよう」
由衣子が頷いて、私たちは席を立った。
『今日こちらに戻って来るのなら、少しでもいいから会えないだろうか』
まただ。
副社長はどうしてしまったのだろう。
副社長には薫という特別な女性がいるのだから、私に構わないで欲しい。
『明日から出勤ですし今日は疲れているので休ませて下さい』
素っ気ないメールで失礼だろうか。でも、本当に会いたくない。
副社長からすぐに返信がきた。
『近いうちに一度会って欲しい』
『お互いの都合が合えばお願いします』
私はもう副社長に会うつもりはない。
誘われても断ればいいのだ。愛人も二股もセフレもごめんだ。
由衣子に連絡をとり、いつもの居酒屋で会うことになった。
先に着いた私はいつかの時のように由衣子を待たずに生ビールを一気に飲み干した。
お代わりを頼んでいると由衣子が来た。
「なあに、今日もやさぐれてんの?」
由衣子は笑いながら私の正面の椅子に座る。
「そうかもね」
ふふっと自嘲的な笑いが出た。
「え、ちょっと。お母さんそんなに悪いの?」
焦った様子で由衣子が目を見開いた。
「あ、違うよ。母は大丈夫。でもね」と初めて姉の事情を詳しく話した。
「それは大変だね。これからの生活もあるし」
「うん。だから放っておけないの。ね、転職って大変かな」
「え?早希、会社辞めるつもり?」
「うん。選択肢のひとつ。地元企業に再就職して姉を手伝おうかなって思い始めた」
「えー、やだ。さみしいじゃん。辞めないでよ」
「私も辞めたいわけじゃないよ。でもね、このまま姉を放ってはおくのはどうかと思うの。家族として」
またビールを飲み干した。
私たちが飲んでいる近くの半個室からにぎやかな声が聞こえてきた。数人での女子会らしい。
このお店は隣との間は薄い壁で通路側は巻き上げ式のすだれで仕切ってあるから別のグループの顔は見えない。
「もしかしてあそこの女子会グループってうちの秘書室の人達じゃない?」
由衣子がささやいた。
「私もそうかなと思ったわ」
漏れ聞こえる話から秘書室の役員付ではない秘書達のようだ。
「ねぇねぇ、最近、康史副社長って雰囲気変わったわよね」
「あー、私もそう思った。結婚近いって噂もあるじゃない。だからかな」
「え?相手は誰?」
「知らないけど、大企業の副社長相手なんだからいいトコのお嬢さまでしょ」
「そうそう、旧財閥系のところからお見合いの話が来てるらしいわよ」
「そうよね。あ、お嬢さまっていえば、薫もお嬢さまだって知ってた?」
「あ、アレでしょ?専務だかなんだかのうちの役員の親戚って話でしょ」
「あら、私は取引先の社長の娘って聞いたわよ」
うるさく騒いでいるわけじゃないものの彼女たちの会話は丸聞こえだ。
あまり聞いていて気持ちがいいものではない。
「由衣子、お店変えよう」
由衣子が頷いて、私たちは席を立った。