彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
イタリア出張の間、佐伯さんと林に早希を探してくれるように頼んだ。

佐伯さんはあの日の一部始終を見ていただけに俺に対する怒りが収まらない。

「だから、あれほど私が言ったのに。どうしてあんな頭の悪そうな品のない女性に谷口さんが傷つけられなくちゃいけないんですか!谷口さんを見つけても副社長にはお知らせしません」

林も醒めた目で俺を見ていたが、
「佐伯さん、アレは確かに品のない女性ですが、アレはあれでも取引先の社長令嬢なんですから、『頭の悪そうな』はちょっと。『異次元空間にいる』辺りでどうですか」
とわけのわからない事を言っていた。

「まぁ、そもそも副社長が過去に軽薄な女性達と軽薄な付き合い方をしていたのが悪いんですが」
と付け加えられて俺は返す言葉もない。

そんな2人に頭を下げて留守を頼んだ。
とにかく俺は全力でイタリアでの仕事をこなして1日でも早く日本に帰らなければ。
早希を探し出して謝るんだ。

土日は何の進展もなかった。
林が何回も早希のアパートに行ってくれていたが、帰宅した様子がないという。
佐伯さんは早希の同期を中心に聞いてくれているが、誰も何も知らないらしい。
手がかりがない。
遠くイタリアの地で俺は焦っていた。


月曜日になり大きな動きがあった。

林からの連絡によると、
早希の退職願が提出済になっていて、社内で退職に関わる全ての手続きが終了しているというのだ。

その上、就職の際に記載されていた緊急連絡先の実家の住所はすでに記録から消去されているという。
退職後の連絡先が新しく記載されていて、住所はS市の郵便局の私書箱になっているから、実家を探す手段は無くなった。

連絡先に書かれた携帯電話番号に佐伯さんがかけてみると、中年男性が電話に出て『早希の知り合い』だと名乗ったという。元の職場から書類など手続き上で何かあれば早希本人に伝えるがそうでなければ、伝言も受け付けないという態度だったらしい。

おまけに月曜日の朝には変わりの無かったアパートが林が夕方見に行くと既に引っ越しした後だったというから驚きだ。

早希の携帯電話は解約されたらしく使えなくなっている。

そうして完全に早希はいなくなってしまった。





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