彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
早希が心配だからといって、仕事を疎かにするわけにはいかない。
わかってはいるが、ふとした瞬間に鳥肌が立つような不安感に襲われる。
早希を失いたくない。
昼休みに早希の退職後の連絡先になっている電話番号にかけてみた。
数コールの後、中年男性らしき人が出た。
「はい。どちらさま?」
「久保山と申します。こちらは谷口早希さんの連絡先でよろしいでしょうか?」
「ああ、ええ、はい。そうですが、何か」
「早希さんとどうしても連絡が取りたいのですが、お取り次ぎをお願いできないでしょうか」
丁寧に話し掛けた。
「あー、そういったお話ですか。本人から全てお断りするよう言われてますんで、残念ですけど」
男性は『またか』という明らかに迷惑がっている口調になった。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「早希さんと連絡を取るにはどうしたらいいのでしょうか。どうしても伝えたい事があるのですが」
「えーっとですね、久保山さんでしたっけ?谷口早希さんは誰とも連絡を取りたくない。現在の連絡先を知られたくないし、全てを切り捨てて新しい生活をしたいと言ってました。それでこうして私のような代理人がいるわけです」
「連絡先を教えていただけないのなら、せめて伝言だけでもお願いします」
「いえ、だからですね、そういった事も一切拒否されていますので、諦めてもいただくしかありませんね」
代理人という男は取り付く島もない。
そんな事ってあるか。
「でも、会社からの書類がなければ失業保険の申請など困るのではありませんか?」
何とかつなぎ止めておきたい。
「いや、それは必要ありません。もう次の職場は決まっていますから」
「えっ」思わず声が漏れた。
「ですから失業保険は必要ありません。これでよろしいですか」
電話を切られそうになり慌てて話をつなぐ。
「どちらの職場に?」
電話口からため息が聞こえた。
「久保山さん、早希さんは誰にも居場所を知られたくないと言っていました。
ですから何も教えられません。
早希さん自身が必要だと感じている相手なら、早希さんの方から連絡があるでしょう。連絡がないのなら、早希さんにとって不必要だということではありませんか?」
わかっていた事だが、他人の口から聞かされるとショックが大きい。何も言い返せない。
「……ですが、もしもその人との縁があるのなら、また巡り会えるのではないでしょうか……と私は思いますが。今は、様子を見てはいかがですか?あなたには背負うものがあるでしょうし。
いや、余分なことを言いました。それでは、これで失礼しますよ。」
一方的に電話は切られてしまった。
わかってはいるが、ふとした瞬間に鳥肌が立つような不安感に襲われる。
早希を失いたくない。
昼休みに早希の退職後の連絡先になっている電話番号にかけてみた。
数コールの後、中年男性らしき人が出た。
「はい。どちらさま?」
「久保山と申します。こちらは谷口早希さんの連絡先でよろしいでしょうか?」
「ああ、ええ、はい。そうですが、何か」
「早希さんとどうしても連絡が取りたいのですが、お取り次ぎをお願いできないでしょうか」
丁寧に話し掛けた。
「あー、そういったお話ですか。本人から全てお断りするよう言われてますんで、残念ですけど」
男性は『またか』という明らかに迷惑がっている口調になった。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「早希さんと連絡を取るにはどうしたらいいのでしょうか。どうしても伝えたい事があるのですが」
「えーっとですね、久保山さんでしたっけ?谷口早希さんは誰とも連絡を取りたくない。現在の連絡先を知られたくないし、全てを切り捨てて新しい生活をしたいと言ってました。それでこうして私のような代理人がいるわけです」
「連絡先を教えていただけないのなら、せめて伝言だけでもお願いします」
「いえ、だからですね、そういった事も一切拒否されていますので、諦めてもいただくしかありませんね」
代理人という男は取り付く島もない。
そんな事ってあるか。
「でも、会社からの書類がなければ失業保険の申請など困るのではありませんか?」
何とかつなぎ止めておきたい。
「いや、それは必要ありません。もう次の職場は決まっていますから」
「えっ」思わず声が漏れた。
「ですから失業保険は必要ありません。これでよろしいですか」
電話を切られそうになり慌てて話をつなぐ。
「どちらの職場に?」
電話口からため息が聞こえた。
「久保山さん、早希さんは誰にも居場所を知られたくないと言っていました。
ですから何も教えられません。
早希さん自身が必要だと感じている相手なら、早希さんの方から連絡があるでしょう。連絡がないのなら、早希さんにとって不必要だということではありませんか?」
わかっていた事だが、他人の口から聞かされるとショックが大きい。何も言い返せない。
「……ですが、もしもその人との縁があるのなら、また巡り会えるのではないでしょうか……と私は思いますが。今は、様子を見てはいかがですか?あなたには背負うものがあるでしょうし。
いや、余分なことを言いました。それでは、これで失礼しますよ。」
一方的に電話は切られてしまった。