彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
あれから半年近くたっているのに、私は少しも副社長の事を忘れる事ができない。
副社長と出会ってからの夢のような日々。
私は一目で恋に落ち、彼の虜になった。
彼が私のものにはならない事はすぐにわかった。
だから、私はたまに彼と2人で会ってお酒を飲むだけで良かった。
それ以上は何も求めるつもりは無かったのに。
でも、世の中にはそれはそれはとてもご親切な女性がいた。
それは副社長とあのホテルに行く前のこと。
その日もいつものように2人でBarで飲んでいた。副社長が席を外したタイミングでその女性は私の元にやってきた。
「今はあなたが蒼の遊び相手ってわけ?」
長い爪には綺麗なネイルがされていて私でも知っているようなブランドの指輪やブレスレットがキラキラしていた。ボリュームのある胸と引き締まったウエストのスタイルをより強調したシルエットのワンピースでかなり人目をひく派手な顔立ちの若い女性だった。
「『蒼』ってどなたのことでしょう?」
副社長の名前ではない。誰かと人違いしているんじゃないのかしら。
「あら、あなた知らないの?『蒼』は康史のモデル時代の芸名よ」
「え?」
モデルって何?
康史は副社長の名前だけど。
「あらあなた、何にも知らないで付き合ってたの?」
女性は呆れたような目で私を見た。
「最近蒼が同じ女と会ってるって聞いたから見に来てみたけど、地味だし全然大したことなかったわね。まぁ、蒼の事だから、いつものようにすぐに飽きて棄てるんだろうけど、棄てられる前に蒼にたくさん貢いでもらうといいわよ。
蒼はそのうちどこかの令嬢と結婚するんだからさ、あっちはそれまでの暇つぶし。だから、今のうちにあなたもいい思いをたくさんしておいたら?」
ふふふっと笑い、長い髪をかきあげてその女性は去って行った。