彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
影踏み
姉の生んだベビーは『竜生(たつお)』と名付けられ、生後5か月になりすくすく成長している。
父親は単身赴任を終えて戻ってきた。
父も私もいるから産後の姉と手術後の母の負担は精神的にも肉体的にも少しは軽減しているはずだ。
特に母は父が帰ってきてとてもうれしそうだ。それに真彩もおじいちゃんにべったり。
私も両親も真彩と竜生がかわいくて仕方ない。
もう恋をするは気がないし、このまま姉と姉の子供たちを一緒に育てていくのがいいのだと思い始めていた。
私のスマホは真彩と竜生の写真でいっぱいだ。
今の職場でたまに男性から食事のお誘いがあるけど、全てお断りしている。
男性と食事するより真彩と食事した方が楽しいし、男女間の駆け引きのような恋愛思考の世界とはもう無縁でいたかった。
だから、私が会社の飲み会に参加するのは職場全体の歓送迎会や忘年会だけ。それでじゅうぶん。
会社で秘書業務をしているけど、社長や役員の接待やパーティーに付き添うのは第一秘書の杉山さんの役目だから第二秘書の私は気楽なもんだ。
真彩とお風呂に入っったあとビールを飲んでうとうとしていたら由衣子からメールがきた。
『久しぶりに高橋と飲んできた。高橋が早希の心配をしてたよ。アイツは私と早希が連絡を取り合ってるって気が付いてるみたい。早希が良ければ高橋に連絡してやって』
『わかった。そのうち連絡するつもり。それよりも、由衣子と高橋は何も進展がないの?』
まだ、高橋とやり取りする気力はない。アイツには悪いと思うけど。
それより、由衣子と高橋だ。教えてもらっていないけど、由衣子は高橋のことが好きだ。
高橋の方だって由衣子に気があるんじゃないかと思うんだけどどっちも踏み込んでいかない。
『は?』
『由衣子が高橋のこと好きなのは知ってるよ』
今まで黙っていたけどね。ふふっと笑いながら由衣子にメッセージを送った。
すると、由衣子から電話がかかってきた。