彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
月曜は朝から役員フロアはそわそわしていた。

私が準備したプロジェクトのためのオフィスは金曜日からうちの社員のプロジェクトチームが使用していた。

メンバーの1人が顔見知りの男性社員、佐々木さんだったから
「どんなプロジェクトなの?」
とそっと聞いてみた。

「谷口さん、知らなかったの?元の親会社から偉い人がデキるメンバー引き連れて来るんだよ。もう会社全体がぴりぴりしてる」
と身体を震わせる真似をしてくれた。
「しかも、うちの御曹司も一緒らしいし」

「ふぅん。なかなかのスケールってことね。で、親会社って何?そもそもここに親会社なんてあったの?」

「ええっ!谷口さん、ヒドいな。よくそれでここに就職できたね・・・」
佐々木さんは口を開けて呆れた顔をしていた。

はぁ、すみません。
縁故採用なもので。
私は小さく頭を下げた。

「元の親会社はアクロスだよ。今はこちらが完全に独立してるから、親会社と子会社の関係じゃないけど」

ん?えっ?はっ?
今、アクロスって言った?

「さ、さ、さささきさん。で、そのアクロスから来る偉い人って一体誰の事でしょう」

「何だか僕の名前のさの数が多かったけど、まぁいいか。偉い人は副社長だって。副社長直々に来るなんてすごいよね」

目の前が真っ白になり、心臓の鼓動が早くなる。

副社長がここに来る?
しかも今日。
どうやって隠れる?それとも逃げる?

「谷口さん、どうしたの?顔が真っ青だよ。ね、大丈夫?」
佐々木さんが何か言ってるけど、耳に幕が張ったような感じがする。うまく聞こえない。

と、とりあえず、このプロジェクトルームにいるのは非常にマズい。一度秘書室に戻ろう。そして、一歩も出ないようにしよう。

頭の中がぐるぐると回る。



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