彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
よろよろと秘書室に戻り、第1秘書の杉山さんに
「あちらの会社の皆さんは何時位にこちらに到着されるのでしょうか?」
と探りを入れてみた。

「新幹線で駅には昼前に到着するんだけど、お昼を食べてからこちらに向かうって聞いているから13時前後かしらね」

時計を見るとまだ11時を過ぎたところでホッとした。
まだ時間に余裕がある。

とりあえず、今日どうやって隠れるか、だ。
副社長御一行様は到着したら、社長室で挨拶があるのか、いきなりプロジェクトルームに直行か。

いや、そもそも到着時にロビーで一同並んでお出迎えなんじゃ・・・。
お腹が痛いことにしてトイレにこもろうか。
うーんと考えていたら、杉山さんにもう昼休みをとるように言われた。

「皆さんの到着が私たちのお昼休みと重なってしまわないように早めに済ませましょう」

私は重なって欲しかったのに…。そう言うわけにもいかず、ひきつった笑顔を返した。

今日は2人共お弁当を持ってきていなかったから、下のコンビニに買い出しに行こうとエレベーターに乗った。

杉山さんによると、やはり到着時にエントランスでお出迎えをするらしい。
どうしよう。ずっと頭を下げているとか、社長の背中に隠れるとか。いやいや、どっちも挙動不審でかえって目立つんじゃないか。

やっぱり、腹痛が1番なんじゃないかな。
よし、到着の少し前から腹痛を訴えてトイレに逃げ込もう。

とりあえず、明日以降のことは今日を乗り切って考えよう。
エレベーターを降りてうつむいてそんな事を考えながら歩いていたら、エントランスに高橋社長の姿を見つけた。

あれ?
何故高橋社長が今、エントランスホールに?

「ごめんね、谷口さん」

隣から杉山さんの声が。

「え?」

ごめんねって何?
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