クールな外科医のイジワルな溺愛
「レイって読むんだよ。黎明期の黎」
「れいめい、き……?」
それって何時代? 首をかしげる私に、黒崎先生は呆れたような顔を見せた。
「だから名前で呼べって言ってんの。さ、そろそろ出ないと本当に遅れるから行くぞ」
「ええっ、ちょっと待ってください」
食べようとしてるのに、先生が話しかけてくるからまだほとんど口をつけてない。急いでサンドイッチを平らげ、高速で歯を磨き、先生について部屋を出た。
車の中で先生に話しかけるとき、つい『先生』と言ってしまって、何度か直された。でも、いきなり名前で呼ぶなんて照れくさくて。だって私たち、友達でもないのに。
「黒崎さん、もうすぐです。そろそろ降ろしてください」
もうすぐ会社の入口が見えてきそうなところでそうお願いするけど、先生は返事もしない。
「うう~、黎さん。お願いします」
観念して名前を呼ぶと、やっと反応してくれた。車が停まったのは会社の真ん前の道路。しまったなあ。もう少し早く観念しておくべきだった。ここは目立ちすぎる。
こんな高級外車から降りるところを誰かに見られたら、何て言われることやら。経理部の誰にも会わないことを願い、松葉杖をついて車を降りる。