クールな外科医のイジワルな溺愛
「ありがとうございました」
きょろきょろと周りを見回す。とちょうど出勤時間だからか、見知った顔が遠くにちらほら見えた。早くこの車から離れよう。
ビルの入口に近づいていくと、早速声をかけられてしまった。
「芹沢花穂! 昨日はごめんね、無事に帰れた?」
後ろを振り返ると、そこには疲れた顔のナミ先輩が。
「大丈夫です。先輩こそ、トラブルの方は……」
「ああ、なんとかなったよ。大丈夫大丈夫」
へへへと笑う先輩。並んで歩いていると、横から経理の先輩と後輩、計二人の女子が近づいてきた。
「芹沢さん、久しぶり。元気になった?」
「あ、おはようございます。お休み中はご迷惑おかけしました」
「ほんとよ。まあ、事故じゃ仕方ないわよね」
そんな挨拶を交わしていると……。
「花穂!」
低い声で名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がる。かつかつと、革靴の足音が近づいてきた。先輩たちも何事かと一緒に後ろを振り返ると……。
「花穂、これ渡すの忘れてた」
なんと、黎さんがこちらに走ってきていた! いきなり現れた長身イケメンに固まる女子たち。ナミ先輩だけは先生に気づき、『アッ』と口を大きく開けた。