クールな外科医のイジワルな溺愛
うなずかれて、ふーっと深いため息が出た。仕方ない。仕事を溜めたのも自分だし、処理しきる能力がないのも自分だ。うつむいて歩いていると、司が気を遣ったのか、話題を変えてきた。彼はいつの間にか、私の隣で歩幅を合わせて歩いている。
「親父さんは、元気になった?」
そのセリフで、思わず足が止まってしまった。そうか、司はお父さんががんで闘病していたことは知っていても、亡くなったことは知らないんだ。
「……亡くなったよ。半年前に」
「えっ……ごめん。そうか、親父さん……」
一瞬にして重い空気になってしまった。司は眉も目じりも口角も下げた情けない顔で黙ってしまう。
「気にしないで」
お父さんが死んでしまったのは、病気のせい。海外に行った司のせいでも、執刀した黎さんのせいでもない。
歩き出すと、司が一歩遅れて追いかけてくる。
「なあ、久しぶりだし飲みに行かないか?」
「は?」
司の濃い顔を見上げる。彼はまだ情けない顔をしていた。
積もる話はお互いたくさんあるだろう。私はお父さんのこと、彼は海外での暮らしのこと。
ちょうどお腹も空いている。どうしようかな、と迷った瞬間、バッグの中で携帯が鳴り始めた。