クールな外科医のイジワルな溺愛
「あ……ちょっと待って。……もしもし」
松葉杖を脇に挟み、壁に寄りかかって電話に出ると、向こうから聞き覚えのある声が。
『花穂、俺』
「黎さん?」
『そう。当たり。俺今からあがるんだけど、もう何か食ったか?』
夕飯のことを言っているんだろう。ちらっと司の顔を見ると、こっちの電話の相手は誰か、推測しているような顔をしていた。
「いいえ、私も残業で今から帰るところで」
『そうか。じゃあ、タクシーで帰ってマンションで待ってろ。エサ買っていくからな』
エサって……私は猫かい。猫ヘアバンドなんかするんじゃなかったな。
「大丈夫ですよ、私の分は自分で……って、もう切れてる」
こっちの返事なんて待たずに切られた電話は、ツーツーと空虚な音を発するばかり。
「ごめん、帰らなきゃ」
黎さんはきっと、私の分まで夕食を調達して帰ってくるだろう。他の人と飲みに行くわけにはいかなくなった。
「今の誰。友達?」
眉間にシワを寄せている司。どうしてそんな目で見るの。私はもうあなたの彼女じゃないのに。そう思っていても、彼氏でもない男の人と同居しているとは言いにくい。