クールな外科医のイジワルな溺愛

黎さんの部屋のドアを開くと、中はまだ真っ暗だった。貸してもらっている端の部屋に荷物を置くと、部屋着に着替えてリビングへ。

お父さんと二人で暮らしていた学生時代から、部屋着は高校ジャージだった。入院してナミ先輩が会社の見本品を持ってきてくれたおかげで、パジャマでも部屋着でも人前に出られる。ありがたいことだ。

松葉杖は玄関に置いてある。家の中は壁伝いに歩けば、それほど膝に負担をかけなくて済む。

リビングの電気を点け、そろそろとテレビの前の大きなソファに腰かけてみるけど、やっぱり落ち着かない。

共有スペースって言っても、結局は他人の家だし。ご飯を待って何もしないのも偉そうだよね……。

キッチンをのぞくと、そこは綺麗に片付いていた。というか、あまり使っていなさそうな雰囲気。並んだ調味料もディスプレイにしか見えず、冷蔵庫を開けてもあまり物が入っていない。

「ご飯くらい炊いておいた方がいいのかな?」

炊飯器を開けるも、やっぱり空っぽ。

「でも、いったい何を買ってくるのかわからないしなあ……」

携帯を見るけど、何のメッセージも来ていない。迷った挙句、すぐにお茶でもコーヒーでも淹れられるように、電気ポットでお湯を沸かしておいた。


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