クールな外科医のイジワルな溺愛
「あとは……」
お父さんと暮らしていた頃を思い出す。そうだ、お風呂を沸かしておこう。
浴室のドアを開け、靴下を脱ぐ。掃除用の洗剤とスポンジを持ち、浴槽の縁に座ってお尻を回して中に入り、腰を思い切り曲げてこすり始めた。
膝に負担をかけないようにすると、他の筋肉をフルに使うことになる。手早く掃除を終わらせ、転ばないように注意しながら浴槽から出て泡をシャワーで流していると、ガチャリと玄関が開く音がした。黎さんが帰ってきた。
「おかえりなさーい」
手足を拭き、玄関に向かう。リビングのドアの前でこちらを見た黎さんはビニール袋を提げていた。
「……何してるんだ」
「え? お風呂洗ってました」
私、いけないことでもした? 黎さんは眉をひそめて私を見ている。
「家事なんてしなくていいって言っただろ。膝が壊れる」
そんなに過保護にしてもらわなくても。
「大丈夫でしたよ。他の筋力が鍛えられていい感じです」
冗談を飛ばすと、黎さんは困ったような顔で、目だけ笑った。
「そうか。ありがとう。メシまだだろ?」
こくりとうなずく。だって、黎さんがあんな電話寄越すから。何も食べずに待っていたから極限までお腹が空いている。