クールな外科医のイジワルな溺愛

「……あの、なにか」

「うん。全然躊躇わないなと思って」

躊躇わない? なんのこと?

首をかしげると、黎さんはふるふると首を横に振る。

「いいや。飯がまずくなるから」

「え~なんですか。気になるじゃないですか」

と言いながら、ぱくぱくと料理を平らげる。そんな私に、黎さんはぼそっと呟いた。

「昔言われたことがあるんだよ。毎日病人や遺体や汚物に触ったり、人の内臓切って血まみれになっている手で作ったメシなんて食えないって」

「え……なにそれ、ひどい!」

どんな潔癖症よ、そんなこと言うやつ。それなら看護師さんも介護士さんもトイレの清掃員もNGじゃない。そういう、他人が嫌がる仕事をしてくれる人に感謝こそすれ、蔑むなんてとんでもない。第一黎さんは人の命を救うために、医者として当たり前の仕事をしているだけじゃない。

「そんなこと気にする方がおかしいです。そんな人に出会うのは、交通事故に遭うのと同じくらいの確率ですよ。大半の人は気にしていないと思います。黎さんも気にしなくていいです。忘れましょう」

こんなにおいしいのに。バカなことを気にして口を付けない人の方がよっぽどバカだわ。

自分の分の料理を平らげ、両手を合わせた。

「ごちそうさまでしたっ!」


< 124 / 212 >

この作品をシェア

pagetop