クールな外科医のイジワルな溺愛
今まで私みたいな平凡な子が周りにいなかったから、新鮮に思えているのかな。そうだとしたら、言葉通り『一時の気の迷い』ってやつだろう。
「ん~、わかりました。じゃあ、お試しで」
とにかく思い切り反らしたままの背中が痛くなってきたから、そろそろ放してほしい。
そんな適当な思いで返事をしたら、ぐっと腕を引かれた。普通に座った姿勢に戻ってホッとしたのもつかの間。
「よし。決まりだ」
目の前に黎さんの顔が迫ってきていたから、思わず手のひらでそれを押さえた。
「チューは! チューはなしです! お試し期間ですからっ!」
油断も隙もありゃしない。手のひらが黎さんの高い鼻を押し、柔らかい唇に触れてしまった。
「そうか、残念。どこまでならいいの?」
冷静に私の手をつかんでどかし、指にキスしながらそんなことを囁く黎さん。
「だからっ……粘膜の接触はなしです!」
「粘膜って」
ぶっと吹き出す黎さん。何がおかしいのよ。頬を膨らませると、余計に笑いながら、黎さんは手を放した。
「ごめんごめん、からかいすぎた。大丈夫、患者さんの表情見ながら接するの得意だから。花穂が嫌がることはしない。それでいい?」
その顔で上目遣いに見られたら、『イヤ』なんて言えないじゃない。
「あわ……あう……うん……」
こうして私は黎さんに流され、彼女(仮)になってしまったのだった。
どうしてこんなことに? 目の前で激辛麻婆豆腐に悶絶したのがそんなに面白かったのかな。
混乱したまま、眠れない夜は更けていった。