クールな外科医のイジワルな溺愛

延命治療はしないとお父さんと決めていた。担当医は最後までそれ以外の処置を──例えば喉に溜まった血を抜いてくれたりした。亡くなってしまうとすぐに死亡診断書を書いてくれ、霊柩車が迎えに来たら看護師さんと一緒に見送ってくれた。

お医者さんって、本当に大変なお仕事だ……。

メモを置いて、ため息をつく。どんな顔をすればいいんだろうとか、どうでもいいことでドキドキしていた自分がバカみたいに思える。黎さんに申し訳ない気さえした。

「よーし、私も頑張ろう!」

当直ってことは、今夜は黎さんが帰ってこないってこと。ちょっと寂しいけど、溜まった仕事を片付けるチャンスだ。夜まで残業しても、誰にも迷惑も心配もかけない。

「お父さん、行ってきます」

朝食を済ませ、自分の部屋に戻り、お父さんの遺影に手を合わせた。

玄関から出ていくとき、優しい声で『いってらっしゃい』と声をかけられたような気がした。


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