クールな外科医のイジワルな溺愛
タクシーで会社に到着すると、すぐに経理部へ。昨日の注目が嘘みたいに、今日は誰にも声をかけられなかった。
やっぱり私って、単品だと地味……というか、ありふれてる人間なのよね。注目されるのは黎さんみたいなハイスペック人間だけさ。
ちょっと寂しいような気もしたけど、やっぱりこっちの方が気楽。やっと異世界から元の世界に帰ってきたような感覚すらする。
朝礼が始まる前から自分のデスクでパソコンを立ち上げる。デスクに山積みになったままの仕事に早速手を伸ばした。
「おはよ。あれ、なんか今日はやる気スイッチ入ってる?」
隣の席のナミ先輩が朝食らしいバランス栄養食片手に挨拶をしてくる。
「おはようございます。頑張らないと月末までに終わらないんで」
「偉いね。それはともかく、例の話、進めてくれた?」
椅子に座ったナミ先輩から耳打ちされ、首をかしげる。例の話って、何だっけ……あ、ドクターと経理部女子の飲み会の話か。すっかり忘れてた。
「はい。黎さ……黒崎先生に参加してくれるドクターを集めてくれるように頼みました。けどドクターは勤務が不規則だし、緊急で呼び出されるかもしれないから難しいかも、だそうです」
さらさらと嘘を並べると、ナミ先輩は明らかにがっかりした顔で肩を落とす。
「そっかー……ま、運よくメンバーが集まることを祈ってる。引き続きよろしくね」
先輩はあっさり引き下がったけど、いつもよりしゅんとした顔で仕事を始めた。