クールな外科医のイジワルな溺愛
入院中から色々あって、極めつけに昨夜のこともあり、寝不足な日々が続いていたから超絶眠いや。
のろのろと経理部のオフィスを出た瞬間、暗い廊下から黒い人影が近づいてきてビックリする。
「よう、花穂」
「な、なんだ司か」
色が黒いから暗闇で見分けづらいよ……。
とにかく近づいてきたのは司で、幽霊とか不審者じゃなくて胸をなで下ろす。
「よく会うね」
昨夜も残業帰りに偶然出会ったのに、今日もか。不思議な縁で結ばれているのかも……なんて乙女な発想をする時期はとっくに過ぎている。
「素っ気ない顔。せっかくお前が終わるの待ってたっていうのに」
「は?」
苦笑する司の手には缶コーヒーが。そして前方には小さな休憩スペースと自販機が。まさか、経理部の出入りが見えるあそこで、こんなに暗くなるまで待っていたの?
「頼んでないけど……」
“せっかく”なんて、ちょっと恩着せがましい言い方だけど。私がいつ「待ってて」なんて言った?
「可愛くねえな。なあ、おごるから食事に行こう。なんなら、ルームメイトさんとやらも誘ってさ」
「ええ……無理だよ。ルームメイト、今日は仕事で帰れないって」
松葉杖をついて、夜でも動いている緊急用エレベーターに向かう。しかし、後ろからついてきた司に杖を取り上げられてしまった。その代わりに自分の腕を差し出す司。
「ほら、つかまれ。杖を返してほしきゃ、ついてこい」
「ふざけないでよ」