クールな外科医のイジワルな溺愛
支えを失った私は、司の腕につかまるしかない。こんなところ誰かに見られたら、明らかにいちゃついてると思われちゃう。
「ルームメイトがいないなら、ちょうどいいじゃないか。一人でメシ食うの、寂しいだろ?」
杖の代わりになって、私をエレベーターに誘導していく司。どうやっても私を食事に連れていきたいみたいだ。他に友達いないのか。
「寂しいのはあんたでしょ。仕方なく付き合ってあげるから、杖を返して!」
「そう来なきゃ」
やっと松葉杖を返してもらい、司の腕から離れた瞬間にエレベーターの扉が開いた。
他の男の人と食事に行くの、黎さんはどう思うだろう。仮でも私、彼女だし。んー、まあいっか。別にやましいことはないし。さっと食べてすぐに帰ろう。一回付き合えば、司も満足するだろう。
「何食べたい?」
「チーズタッカルビ」
「何それ? どこにあるの?」
調べろよ。そっちが誘って、何を食べたいか聞いたんでしょ。優しさに見えるけど、ただの怠慢じゃん。
「これだから西洋かぶれは……」
ぶつぶつ言いつつ、携帯でお店を調べながら会社を出る。歩きスマホをする私が転ばないように、司は前方に注意して非常口へ誘導してくれた。
「よし、ここに行こう。ここならそう遠くないし……」
守衛さんのいる非常口から会社の外に出る。秋のようやく冷たくなってきた夜風がスカートの裾を揺らした。
つい最近まで夏みたいに暑い日もあったけど、とうとう寒くなってきたな。タクシー乗り場に向かおうとした、その時。