クールな外科医のイジワルな溺愛
このままここで女性と対峙していたら、松葉杖で殴ってしまいそうだ。
私は司の腕を引っ張り、できる限り早くその場を離れた。司がいてくれないと、自分が何をするかわからないから。
司は何度か後ろを振り返ったようだけど、一緒にタクシーに乗るまで口をつぐんでいた。
「おかわり!」
空になった中ジョッキをテーブルに叩き付けると、向かいに座っていた司が呆れかえった顔でため息をついた。
「もうやめておけ。お前、仮にも怪我人だろ」
「内服薬はないからいいの!」
ただの骨折だもん。お酒がなんの影響を及ぼすって言うのよ。ビールなんてね、ただの麦ジュースよ。
最悪な気分で司と入った韓国料理店で当初の目論見通り、チーズタッカルビを注文。それをつまみながらビールを一杯だけと思って飲み始めたら止まらなくなってしまった。
酔ってきたところで、司に今までの昔話をする。それは大半が母に対する恨みと、お父さんとのほのぼのエピソードだった。
「まあ、お前の気持ちもわかるけどさ。お母さん、本当に金目当てで近づいてきたのかなんてわからないんだから。今度もし会いに来たら、話だけでも聞いてやれば」
司は石焼きビビンバをゆっくり食べながら、落ち着いた声音で話す。その顔はあのみすぼらしい女を憐れんでいるように見えた。
「今度なんてないわよ」
あんな言い方をして別れたんだもの。もう会いに来ることはないだろう。