クールな外科医のイジワルな溺愛

本当は少しだけ、司の言うことも一理あると思う。お父さんに苦労をさせた本人を前にして冷静でいられなかった。格好はみすぼらしかったけど、お金を無心に来たとは限らない。もう少し落ち着いて話を聞けば良かった。

でも……母が純粋に私に会いたくてやってきたとは、どうしても想像できない。だって、母は男のために夫と娘を捨てたんだから。

そう考えると、やっぱり私を利用しようとして近づいてきたんじゃないか。そういう不愉快な仮説に達してしまう。

「可愛くないなあ」

ぼそっと言った司の顔をにらみつける。

「あの女のせいで、私はこんな性格になったのよ」

今は自分を好きだと言っていても、いつか手のひらを返すように簡単に裏切られるかもしれない。

まだ大人になりきっていなかった私に、母の残した傷は深すぎた。

周りの友達が恋に夢中になりはじめても、私は冷めた目でそれを遠くから見ていた。

『どうせ、愛情なんていつかはなくなるのよ』と。

素直に人に甘えることも、好きになることも、好きだと言ってくれる人を信じることもできず、今までやってきた。

ただお父さんだけは、最期まで私に無償の愛をくれた。お父さんのことだけは信じているけど、他の人は……。

私がこんなに臆病になってしまったのは、母のせいだ。

「……花穂は昔からそうだよな。相手に弱みを見せる勇気がなくて、下手に強がって。それであとで後悔するんだよ」

うるさい。私が思っていることを言い当てないでよ。


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