クールな外科医のイジワルな溺愛
返事もしないで料理を次々に口に放り込む。せっかく食べたかった料理なのに、味がよくわからない。
「付き合ってた頃は俺も若かったから、よくわかっていなかった。面白いけど可愛くない女だと思ってた」
箸を置き、そんな話を続ける司。神妙な面持ちになっている。可愛くなくて悪かったわね。
「でも、今思えば花穂が素直に甘えられるくらいの度量がなかった俺が悪かったんだ。お父さんのことも受け止めきれずに、誰かが何とかしてくれるのを願ってた。花穂が辛いのはわかっていたのに、一緒にそれを背負う覚悟ができなかった」
司の眉間に徐々に深いシワが寄る。
今さら通りすぎた過去を懺悔されても……。母に対する怒りは、今まで生きてきた過去全体に対する悲しみに変わっていく。
「今更だと思うけど」
テーブルの上に置いてあった手に、そっと大きな手のひらを乗せられる。ビックリして思わず司の目を見た。彼はいつになく真剣な表情をしていた。
「やり直そう、花穂。今の俺なら、お前を支えてやれる。もう逃げない」
「司……」
「この二年間で、少しは成長したつもりだ。ひとりにして悪かったよ、花穂。これからは俺に頼って」
母と名乗る女に凶暴に踏み荒らされた心に、新しい風が吹いたような気がした。
ただただ驚いて、目を見開いて司を見る。もしかして夢なんじゃないかと何度も瞬きするけど、司の顔は変わらない。いつもどおりアラブの石油王のように濃いまま。