クールな外科医のイジワルな溺愛

「よくもまあ、こんな昼間まで寝ていられるな」

耳のすぐ近くから声がして、ハッと目を覚ました。そこには、呆れた顔の黎さんが。

「ひえっ」

びっくりして、近すぎる甘いマスクから逃れようと回転したら、ベッドから落ちてしまった。幸い右ひざは打たなかったけど、痛いことは痛い。

「あーあ、何してんだよ」

さっと私を起こしてくれる黎さん。その間に、必死に昨夜の記憶を探る。

ええと、黎さんは当直だから早く帰らなくても良いと、頑張って残業をして……帰りに司が待っていて。

そこまで考えて、とても不愉快な記憶にたどり着いてしまった。

そう、母に再会して、荒れて司と飲みに行った。何杯飲んだかは覚えていない。けど、体に残るこのだるさは……いつになく飲みすぎた余韻だろう。

黎さんは当直明けで午前中に帰ってきた。そこから何時間か寝て起きても私が現れない。それを不審に思って部屋に様子を見に来たという。

「おい、大丈夫か? お前、酒飲んだだろう。匂いがすごい」

ぼーっと口を開けっぱなしで黎さんに寄りかかっていることに気づいて、パッと壁際に離れた。

最悪……女子の口からするお酒の匂い。私が男だったらさぞがっかりすることだろう。

「酒は完治するまではやめておけ。アルコールはカルシウムの吸収を阻害し、骨の治りを悪くする」

久しぶりにドクターっぽいことを言った黎さんは、せっかく開いた距離を静かに詰めてくる。


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