クールな外科医のイジワルな溺愛

会場に入ると、黎さんはどこからか椅子を借りてきて、壁際に置いた。私をそこに座らせ、ウエイターから受け取った細長いグラスを渡してくれる。

「ほら、ノンアルコールシャンパン」

それってただのジンジャーエールじゃ……。

「ありがとうございます」

完治するまでは飲まない方がいいよね。少なくとも、黎さんの前では。私は抵抗せず、それを受け取った。少量のそれを食前酒代わりに飲みほすと、黎さんがグラスを取り、代わりに料理の乗ったお皿を押し付けてきた。

「はい、カルシウム強化ね。あと赤身もとって筋肉もつけないと」

お皿の上には小骨ごと食べられる魚の南蛮漬けを中心に、小松菜などカルシウムその他の栄養がバランスよく取れるような料理が少量ずつ配置されていた。

天才外科医が、凡庸な私のためにめっちゃ働いてくれている……。自分の料理を取りに行った黎さんの後姿を見ていると、温かい気持ちになった。

自分より私の事を優先してくれる人がいるって、幸せだなあ。大切にされている感覚を噛みしめながら、正装している黎さんに見惚れる。

スクラブの上に白衣を羽織った姿も良かったけど、これはこれで……。

お皿を持ったまま黎さんの帰還を待っていると、ふと会場の照明が暗くなった。代わりに明るくなったのは一段高くなった舞台。マイクが設置されたそこには、雇われた司会者と思われるスーツの女性が。


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