クールな外科医のイジワルな溺愛
『皆様、本日はご多忙の中お集まりいただき、ありがとうございます……』
“なんとか医師会”とか”医療法人なんとか”とか、馴染みのない単語が並んだ挨拶のあと、パーティーの主催者と思われる老年の紳士が現れた。恰幅がよく、表情も落ち着いていておどおどしたところがない。文字通り、”どっしりとした”感じのおじいちゃんだ。
「今回はどうしても断れなくてさ。あんなの聞かなくていいから食べよう。味はいいはずだ」
帰ってきた黎さんが耳元でひそひそ話しかけてくるから、おじいちゃんの話が聞けなかった。結局何のための集まりなのかわからないけど、私が無理に理解する必要もないだろう。
「お、これ美味い」
黎さんもおじいちゃんの話を全く聞かず、黙々と料理を口に運ぶ。
そんな不真面目な私たち以外の参加者は、熱心におじいちゃんの話を聞いているように思える。無理なくフォーマルな服を着こなす彼らは、表情に自信が満ち溢れていて、私や私の母とは別の人種のよう。
「同じ国に生まれてこうも違うか……」
ぼそっと独り言を呟いた。白鳥の群れに飛び込んでしまったアヒルのような気分。連れてきてくれた黎さんには申し訳ないけど、居心地悪いなあ……。
だけど、料理は文句なしに美味しい。黙々と料理を口に運んでいると、長かったおじいちゃんの挨拶が終わった。
「俺だったら“楽しんでくださいね”で終わりだね」
まるで中学生のような悪態をついた黎さんに、誰かが近づいてきた。中肉中背の紳士と、同じような体型をした奥様。二人は夫婦かな。