クールな外科医のイジワルな溺愛

「やあ黎君、久しぶりだね。今勤めている大学病院では、大活躍しているそうじゃないか」

「ご無沙汰しております」

爽やかに握手を交わす二人。

「お父さんにはお世話になっているよ」

「こちらこそ。あの父に合わせていただくのは大変でしょう」

にこやかに会話をする黎さんは、まるで知らない人みたい。居心地の悪さが増大して、いたたまれなくなってきた。

「こちらのお嬢さんはお友達?」

奥さんが悪気のなさそうな顔でこちらに話題を振ってきたのでびくっとする。

「ええ。足を怪我しているので、座ったまま失礼します」

黎さんが軽く肩を叩く。無理に立たなくていいということかな。私は夫婦とは目を合わせず、軽く会釈するだけにとどめた。

夫婦はさして私に興味を持った風でもなく、二言三言交わすと笑顔でどこかに消えていった。

「やっと退散したか」

黎さんが眉を下げると、また見知らぬ男女に声をかけられる。

「あの私……お腹が空いているのでお料理を取ってきます」

「ああ……」

小さい声で言うと、そっとその場から離れた。壁伝いに歩き、会場の反対側へ。黎さんたちの会話が聞こえない位置に来ると、少しほっとした。

黎さんのお父さんって、とっても偉い人なのかも。さっきの紳士も『お父さんにはお世話になっているよ』なんて言ってたし。

あーあ、これいつまで続くのかな。黎さんの傍に戻りたいけど、もし彼の知り合いに話しかけられてもうまく会話をする自信がない。私は彼らのことを誰一人知らないし、セレブと合う話題なんてないよ。


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