クールな外科医のイジワルな溺愛

私の目をのぞきこんでくる麗香さん。その瞳には単なる興味以外のものが浮かんでいる気がして、たじろいだ。

「もう行くよ」

「せっかく来たのに」

「お前がいるって知ってたら、来なかった」

黎さんは麗香さんから逃げるように、私の手を引いて早足で歩く。私は麗香さんに会釈だけして、必死で黎さんについていった。



黎さんと車に乗ってたどり着いたのは、東京湾が一望できるふ頭だった。水辺特有の強い風が吹き、薄いイブニングドレスの裾を揺らす。

「わあ、すごい」

幾何学模様が描かれたデッキから見える景色は、黎さんのマンションから見える夜景とはまた違った趣で、私の憂鬱な気分を晴らしてくれる。

夜のために黒くみえる水面。ティアラみたいに銀色に光るレインボーブリッジの下を、豪華客船が優雅に通っていく。私たちはベンチに座って、それを眺めた。

「あれってセレブしか乗れないんですよね?」

「そんなことないだろ。リーズナブルなツアーだってたくさんあるさ」

「へえ」

私なんて屋形船にすら乗ったことない。屋形船を馬鹿にしているわけでなくて、気軽さの問題で。

反対側を見ると、湾の向こうに高層ビルが見える。その中で東京タワーだけが温かみのあるオレンジ色に光っていた。

「東京タワーが可愛い」

「可愛い……かな。うん、花穂がそう言うなら可愛いく見えないこともない……?」

思い切り首を傾げている黎さんが可愛くて、思わず笑ってしまった。冷たい風に煽られて、笑い声の最後がくしゃみにかき消される。


< 152 / 212 >

この作品をシェア

pagetop