クールな外科医のイジワルな溺愛
私の目をのぞきこんでくる麗香さん。その瞳には単なる興味以外のものが浮かんでいる気がして、たじろいだ。
「もう行くよ」
「せっかく来たのに」
「お前がいるって知ってたら、来なかった」
黎さんは麗香さんから逃げるように、私の手を引いて早足で歩く。私は麗香さんに会釈だけして、必死で黎さんについていった。
黎さんと車に乗ってたどり着いたのは、東京湾が一望できるふ頭だった。水辺特有の強い風が吹き、薄いイブニングドレスの裾を揺らす。
「わあ、すごい」
幾何学模様が描かれたデッキから見える景色は、黎さんのマンションから見える夜景とはまた違った趣で、私の憂鬱な気分を晴らしてくれる。
夜のために黒くみえる水面。ティアラみたいに銀色に光るレインボーブリッジの下を、豪華客船が優雅に通っていく。私たちはベンチに座って、それを眺めた。
「あれってセレブしか乗れないんですよね?」
「そんなことないだろ。リーズナブルなツアーだってたくさんあるさ」
「へえ」
私なんて屋形船にすら乗ったことない。屋形船を馬鹿にしているわけでなくて、気軽さの問題で。
反対側を見ると、湾の向こうに高層ビルが見える。その中で東京タワーだけが温かみのあるオレンジ色に光っていた。
「東京タワーが可愛い」
「可愛い……かな。うん、花穂がそう言うなら可愛いく見えないこともない……?」
思い切り首を傾げている黎さんが可愛くて、思わず笑ってしまった。冷たい風に煽られて、笑い声の最後がくしゃみにかき消される。