クールな外科医のイジワルな溺愛

「くしゅっ」

「あーあ。やっぱり寒いか」

ストールを肩に巻いて、車に乗せていた私物のジャケットを着ているけど、ドレスの袖がないせいかやっぱり寒い。

「大丈夫です」

いくら寒くても、さっきのホテルよりはよっぽどいい。デッキには寒いせいかちらほらとしか人がおらず、静けさが心地いい。

やせ我慢をしたつもりはないのだけど、黎さんは自分のジャケットを脱いで私に着せてくれた。

「大丈夫なのに。黎さんが寒いでしょ」

「いいよ。むしろ俺の服を着て指先しか出ない花穂を見てるだけで胸が熱いね」

「何寒い冗談言ってるんですか」

ツッコむと黎さんは笑った。パーティー中の白々しい笑い方とは違う。私の知っている黎さんの笑顔が見られて、心の中で密かにホッとした。

「……妹さん、綺麗ですね。黎さんに似てた」

「あいつ? どこが。俺には悪い魔女にしか見えないね」

麗香さんの話題を出すと、黎さんは思い切り顔をしかめる。

「どうしてそんなに嫌うんですか。妹さんなんでしょ?」

私は一人っ子だから、兄弟って聞くと羨ましいんだけどな。兄弟がいたら、お父さんが病気になったときも一人で抱え込まず、協力して看病できたかも。そうしたらもっと心に余裕が持てて、細かく気配りできたかもしれないのに。

「あいつは、しつこいんだよ。……ちょっと待ってて」

そう言うと、黎さんは軽やかに走っていき、展望台のふもとにある自動販売機で何かを買って戻ってきた。


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