クールな外科医のイジワルな溺愛
「はい。どっちがいい?」
差し出されたのは温かそうな缶のカフェオレとミルクティーだった。私がミルクティーを受け取ると、黎さんはカフェオレを持って隣に座りなおした。
「実は俺、親父と仲違いして、勝手に今の病院に転職したんだよ」
「はい?」
家族の話をするのを嫌がっている風だった黎さんがいきなりそんなことを言いだすので、ビックリしてしまった。缶を持ったまま見上げる私の方は見ず、黎さんは遠くの景色を見たまま話し続ける。
「親父は、別の病院を経営しているんだ。まあまあでかいやつ」
「へえ……」
なんてこった。さらっと言ってるけど、それって存分に自慢できる話じゃない? 黎さんって、生まれたときからセレブ一族なんだ。パーティーで話しかけてきた夫婦は、きっとお父さんの病院の関係者だろう。
「小さい頃から医者になるんだってすり込まれて育って、素直に医者になった。そのまま親父の病院に勤めてたんだけど、嫌になっちゃってさ」
なんて贅沢な。なんてもったいない。
私があんぐりと口を開けている間に、黎さんはすました顔でカフェオレをすする。
「どうして」
かろうじてそれだけ尋ねると、黎さんは淡々と答える。
「まあまあでかい病院だからさ、派閥とか上下関係とか、医者同士の面倒ごとが多くてさ。親父は血縁に病院を譲らなきゃ、みたいな古い考えは持ってないんだよ。だから余計に権力争いとか後継者争いとかがすごくて」