クールな外科医のイジワルな溺愛

「はあ……」

まるで昔のドラマのような話だ。やっぱり自分が生きてきた世界とは次元が違いすぎて、呆気にとられてしまう。
権力を持つことがないから、争いに巻き込まれたこともない。ある意味幸せな人生なのかも。

「患者さんと向き合うより、そっちの方に真剣で全力を傾けている医者どもが嫌で、親父に内緒で辞めて、今の病院に移った。こっちも色々とあるけど、俺はゆくゆくは親父の病院を継ぐんじゃないかと思われてるらしくて、争いに巻き込まれる気配はない。ちゃんと医者の仕事だけやらせてもらって感謝してるよ」

そこまで言って、黎さんはひと息つく。

「麗香さんは、黎さんにお父さんの病院に戻ってきてって言ってるんですね?」

電話で、『もう戻らないって言ってるだろ、麗香』って聞こえた。あのときは元カノに復縁でももちかけられているのかと思ったけど。

「そう。あいつも医者で、親父の病院にいる。俺がやる気がないなら、自分が院長になってやるとさ」

「ひええ。女医さんだったんですか」

しかも野心むき出しの肉食女子。ドン引きなんてとんでもない。むしろかっこよすぎるわ。

「要は味方が欲しいんだよな。自分の派閥に入ってくれる医者がさ。そんなのごめんだって何度も言ってるんだけど聞かなくて」

「お父さんは何て言ってるんですか?」

「そりゃあ商売敵にこんな腕のいい息子がいるんだ。取り戻したいに決まってる」


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