クールな外科医のイジワルな溺愛

甘いはずのカフェオレを飲んで苦々しい顔をする黎さん。お父さんとも色々あるみたい。そりゃあ自分の息子は可愛いもんね。別の病院に行ったりしてほしくないはず。というか、自分を支えてほしいという思いもあるのかもしれないな……。

「セレブの世界も大変なんですね」

あのパーティー会場にいると、周りが絶対無敵の存在に見えた。キラキラ輝いてて、自信に満ち溢れた人たち。でもそれは私が自分に引け目があるからそう見えちゃうだけで、本人たちはあれで色々と苦労しているんだろう。

しみじみと考えていると、黎さんが独り言のようにぽつりとこぼした。

「そう。だから、父親のために純粋に泣ける花穂に惹かれたんだよ」

小さい声だったので、聴き逃しそうになってしまった。

これ以上できないくらい目を見開いて、黎さんの横顔を見上げる。すると彼もゆっくりとこちらを向いた。

「お父さんの入院中。オペが終わって内科に転科したあと、五階のテラスでよく泣いてただろ」

五階のテラス……その言葉で、思考は半年前に遡っていく。

衰弱していくお父さんの姿を見るのに耐えられなくて、看護師さんがオムツ交換や体位変換に来たとき、よく五階のエレベーターホールから外に出られるテラスに行ってたっけ。

「看護師さんが言ってたよ。芹沢さんの娘さんは病室でいつも明るく元気に振舞うんだって。だけどオムツ交換の時に席を外して、戻ってきたと思ったら目が赤く腫れてるんだって」

黎さんも当時を懐かしく思い出しているみたい。寂し気だけど、優しい顔をしていた。


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