クールな外科医のイジワルな溺愛

内科の看護師さん、外科の黎さんにどうしてわざわざそんなことを……。同じ病院だから、たまたま会うこともあるだろうけど。

「俺も外の空気が吸いたくてあそこに行くことがあったんだ。そこで泣いている花穂を見つけた」

「うそ。そんなことありましたっけ?」

尋ねると、黎さんは苦笑した。

「うん、花穂に見つかる前にすぐ退散したから。だって、俺がオペした患者さんの娘さんだよ。もう退院できる見込みはない、このまま看取るしかないって内科から聞いちゃった状態で、何て声をかければいいのかわからなくて」

「父が亡くなったのは先生のせいじゃ……」

「ありがとう。でも、そう思わない家族もいるから。救えなかったのが申し訳なくて、俺の顔なんて見たくないだろうと思って」

そんな風に気を遣ってくれていたなんて。泣き顔を見られていたことも全然知らなかった。

「私、先生を恨んだことなんて一度もありません」

「こら。いつの間にか“先生”に戻ってる」

「あ……すみません」

だって、病院の話なんてするから。

また黙ると、黎さんは話を戻す。

「とにかく。花穂が“患者さんの娘さん”だった頃から、ずっと気になっていたんだよ。でも、あのときの花穂に近づくことはできなかった。気になりながらも諦めようとしていたら、内科でお父さんが亡くなったことを知った」


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