クールな外科医のイジワルな溺愛
黎さんが、前から私のことを見てくれていた。そんなにわかに信じられない話を、すらすらと平気な顔で話し続ける。
「もう会わないだろうと思って忘れかけていたら、花穂自身が患者になって現れた。びっくりしたよ。変な服着て、車に轢かれて膝割れちゃってるし」
当時を思い出したのか、突然吹き出す国宝級イケメンドクター。
ひどくない? そりゃああの時はすごく適当な格好してたけど、怪我した患者を思い出して笑わなくても。
「いったい何が言いたいんですか」
いきなり昔話なんかしだして。私をからかっているの?
じっと見つめると、黎さんはふっと真面目な顔に戻る。
「花穂が好きだってことが言いたい」
どくんと心臓が思い切り跳ねた。これに近いやりとり、つい最近したような気が。
「付き合いたいって言っても、そこんとこわかってくれないみたいだから、ちゃんと言うしかないかと思って」
「黎さん……」
だって、黎さんみたいな人が本気で私のことを好きになってくれるなんて想像したこともなくて。付き合いたい=好きにならないこともあるし。
次元の違う人間に対する単なる興味じゃなくて、本当に私のことを好きで付き合いたいと言ってくれていたなんて。
「今日は失敗だったな。ドクターの世界なんて、つまらないと思っただろ」
黎さんは眉を下げる。
たしかに、あのパーティーは苦痛でしかなかった。けれどそれは、自分がその場所にふさわしくないと思い知らされたからであって、黎さんのせいじゃない。