クールな外科医のイジワルな溺愛
ぼそりと呟く。
「私なんかで本当に、いいんですね?」
上目遣いでにらむと、黎さんが目を細くして笑った。彼の周りだけ、昼のように明るくなったような錯覚にとらわれる。
「うん。花穂がいい」
そう囁くと、彼の端正な顔が視界いっぱいに広がり、やがて何も見えなくなる。まぶたを閉じたからだ。
唇に温かい感触を感じ、緊張で身が硬くなる。そんな棒きれみたいな私を、黎さんはその体温で解凍するように優しく包み込んだ。
もしかして私、夢の中にいるのかな。やっぱり、黎さんみたいな人が前から私に想いを寄せてくれていたとは信じられない。
それでもいい。たとえ一瞬で醒めてしまう儚い夢だとしても、今だけはこうしていたい。
私は勇気を出して、黎さんの背中に腕を回す。すると彼は強く、しかし心地良く、私を抱きしめ返してくれた。
今夜だけは、緊急コールが来ませんように。私は黎さんの胸の温かさに溺れたまま、そう祈った。