クールな外科医のイジワルな溺愛
「おやすみ」
「おやすみなさい」
私の部屋のドアの前で、黎さんがキスをしてくれる。
いつまでもこんなほのぼのとした日々が続くといいのに……。
彼と別れてドアを閉め、お父さんの遺影に手を合わせる。
お父さんもどうか、このまま平穏に過ごせるように見守っていてね。
写真の中で笑うお父さんの顔を見ると、ふと歳をとった母親の姿が脳裏によみがえる。
そういえばお父さんは、どんな状況でも私にお母さんの悪口を言ったことはなかったね……。
幸せなはずの胸中に、翳りが生じる。それが広がっていかないよう、余計なことを考えないように自分に言い聞かせ、眠りについた。
次の日出勤すると、課長から無慈悲な命令が下された。
「芹沢さん、この書類を営業部に持っていってくれないかな」
「営業部……ですか」
恐怖の月末を乗り越え、すっかりいつもの仕事のペースに戻り、こちらも平穏な毎日を送っていたというのに……。
営業部には、司がいる。今度会えば、先日の復縁要求についての答えをしなくてはならない。
私は司を避け続け、休憩はいつもデスクか、先輩たちと外に行くかしていた。帰りに待ち伏せされたらどうしようとドキドキしていたけど、その心配は不要だった。あっちはあっちで仕事があるし、私ばっかり構っているわけにもいかないんだろう。
そんなわけで幸運にもほぼ二週間司に会わずに済んでいるわけだけど……。