クールな外科医のイジワルな溺愛
「今日はオペも少なかったから、早く切り上げて迎えに来たんだ」
破壊力抜群の笑顔に、粉砕されそうになる。
仕事終わりに黎さんが迎えに来てくれるなんて。彼の秀麗な姿は周囲の目を惹き付けてしまうから恥ずかしさもあるけど、やっぱり嬉しい。
「お疲れ様。ありがとう」
そう声をかけると、黎さんがそっと私の手を握る。
うわあ、恋人みたい……って、私たち実際に付き合ってるんだっけ。
周りの目を気にしないように努力しながら、近くに停めてある黎さんの車に乗り込もうとする。そのとき、ふと歩道を歩く人と目が合った。
「あっ」
相手は遠慮なく驚きの声を上げた。それは司で、目を丸くしてこちらを見ていた。
「知り合い?」
運転席から黎さんにたずねられ、ハッとする。急いでドアを閉め、黎さんの方だけを向いた。
「うん、同じ会社の人」
「へえ。経理って感じじゃないな。違う部署だろ」
エンジンをかけながら、黎さんが言う。発進した車はあっと言う間に司を追い越す。バックミラーをそっと覗くと、司の口が『マジだったのか』と動いているように見えた。
「何食べに行く?」
「え、あ、じゃあ……」
バックミラーから目を離し、周辺のお店を探すために携帯を取り出す。でも頭の中には昼間司と交わした不愉快な会話の内容が自動再生されていた。そのため、何を食べるかという決断をなかなか下せなかった。