クールな外科医のイジワルな溺愛
先生によっては、携帯の電源を切ってしまって、休みの日は絶対に出ず、当直医に任せる人もいるみたい。でも黎さんは、そういう割り切り方が上手なドクターじゃなかった。
一緒にいるときも滅多にお酒を飲めないのは、緊急コールがあったときにいつでも診察やオペができる状態でいたいから。そう聞いた時はびっくりした。
今は黎さんと暮らすのは嫌じゃない。むしろ、もっと一緒にいたいと思っている。
この状態がずっと続いたらどうだろう? いつかお互いを『自分のライフスタイルを崩す邪魔なやつ』と思うに至らないかな。
「……焦らなくていいから、考えておいて」
私が同棲を渋っていると思ったのか、黎さんは安心させるような落ち着いた声でそう言うと、準備に戻ってしまった。そのまま同棲に関しての会話は途切れた。
ちょっと前までは私の方もこれからどうするかを早く決めたがっていたのに。司にちょっと脅されただけで不安になって尻込みしてしまう。そんな自分が嫌いだ。
落ち込んだ気持ちのまま時間は来て、黎さんは出かけてしまった。後には主を失った無駄に広い部屋だけが残された。