クールな外科医のイジワルな溺愛
「黎さ……黒崎先生なら、学会で出かけていていませんけど」
なんとなくこの人の前で、親しい呼び方をするのは躊躇われる。きっと黎さんに会いにきたんだよね。親切に教えてあげたけど、どうやらそれは不要だったらしい。
「知っているわ。私はあなたに会いに来たの。芹沢花穂さん」
美しい客人は、にっと笑って見せた。華やかな微笑みの向こうに、得体の知れない何かを感じる。
「私の名前……」
黎さんは麗香さんと仲が悪いはず。勝手に調べたのかな。そう思うと、気分が悪くなった。それを顔に出さないように注意を払う。
「ちょっとお話したいことがあるの。そこのカフェに入らない? お兄さんの部屋でもいいのだけど」
麗香さんの口調は丁寧だけど、威圧感に満ちていた。主人の許可を得ていない人を留守中に入れるのもどうかと思った私は、敷地内にあるカフェに移動することを承諾した。
いったい何を言われるんだろう。席に案内されてメニューを見ている間もずっと、胸の辺りが苦しかった。
やがて二人分のコーヒーが運ばれてくると、ミルクを入れながら麗香さんが口を開いた。
「私、花穂さんのことが心配でやってきたの」
「私の心配? どういうことですか?」
てっきり『あなたはお兄さんにふさわしくないから別れてちょうだい』とか言われるのかと思っていた私は拍子抜けする。
けれど、次の瞬間私の警戒心は頂点に達した。麗香さんが携帯を取り出し、そのディスプレイを見せてきたから。