クールな外科医のイジワルな溺愛
「いいのよ一度くらい。お兄さんの大切な人のお母さんのためだと思えば。でもね、あまりあてにされても困るの。わかるわよね?」
「はい……」
麗香さんはお母さんにいくら渡したのか、言うつもりはないみたい。全身の血が凍っていくような感覚に襲われる。なんてことをしてくれたのか。
「今後、私ははっきりお断りするつもりよ。お母さんのためにもよくないものね。その場合、お母さんは誰をあてにするのかしら」
「誰って」
「今度こそうちの両親か、お兄さんか、あなた自身か」
ぱきぱきと、心臓まで凍り付いていく音が自分の中から聞こえてきそう。このまま氷の彫像になってしまえたら、その方がいいのかもしれない。
「私は、お兄さんやあなたが嫌な思いをするんじゃないかと心配してる」
「はい」
「お母さんは今後、高確率で医者と付き合っているあなたを頼ってくると思う」
もう返事をする気力もわかない。黙ってうなずくと、麗香さんは追い打ちをかけてくる。
「こんなことが実家に知れたら、両親はあなたとお兄さんを引き裂こうとするかもしれないわ。お兄さんも、お母さんがそういう人だって知ったら、あなたに対する気持ちが冷めてしまうかもしれない」
もう言わないで。
「じゃあどうしろって言うんですか……私に母を殺せとでも?」
「そんなこと言うわけないじゃない」