クールな外科医のイジワルな溺愛
膝に置いた手が震えている。気づけば、全身が小刻みに震えていた。そんな私に、麗香さんは優しく言い聞かせる。
「どうするのも、あなたの自由よ。お兄さんに事情を話して、金銭的援助をしてもらうのもいいでしょう」
そんなの、できるわけない。黎さんに迷惑はかけられない。
「私は、もう物乞いみたいな真似をしないようにお母さんを説得するしかないと思うけどね。いったいどういう状況でそんなにお金に困っているかは知らないけど、お役所がどうにかしてくれるケースもあるでしょう」
「生活保護の申請、とか……」
「そう。良い解決法が見つかるといいわね。何か力になれることがあったら相談して」
そう言って麗香さんは一枚の名刺を差し出す。そこには誰も一度は聞いたことがあるだろう有名な大病院の名前と、『内科部長』の肩書が。
麗華さんの話たいことはこれで全部のよう。彼女は立ち上がり、自然に伝票を持つ。
「あの」
「いいのよ。私がお誘いしたんだもの。じゃあ、また」
ブランドの服をムリなく着こなした美人は、颯爽と歩いていってしまう。
一人で席に残されて、じっと渡された名刺を見つめる。まだ若いのに、こんな大病院の部長さんって……。
住む世界が違う。黎さんと出会った時に幾度となく思ったその言葉に打ちひしがれる。
惨めだ。私って、どうしてこんなに惨めな存在なんだろう。