クールな外科医のイジワルな溺愛
「もうやめてよ……」
ぎり、と奥歯を噛んだ。おぞましくも血が繋がっているあの母が、また私を苦しめる。
やっと、他人の愛情を信じられると思ったのに。私でも、誰かと一緒に人生を歩んでいけるかもと思ったのに。
そんな小さな希望を、これほどひどい形で裏切るなんて。
麗香さんが私を待っていた理由が、今更ひしひしとわかってきた。
言い方は優しかったし、一見私のためを思っている風でもあった。でも結局は私が最初に予想した通りの事を言いたかったんだ。
あんな母親がいる私には、黎さんに、そして黒崎家に関与してほしくない。遠まわしにそう言ったんだ。
頭が痛くなってきて、まぶたを閉じる。まるで目の前で黒い緞帳が降りていくみたい。
やっと手に入れたと思った幸せに幕が下りていく。ヒロインでいられる時間はもう終わりなの?
目を開けても、涙は出なかった。私はじっとコーヒーの黒い水面を眺める。
こうしてはいられない。お母さんは味をしめて、また麗香さんに近づくかもしれない。そして麗香さんに断られたら、今度こそ私や黎さんを直接訪ねてくるだろう。そんな迷惑はかけられない。
立ち上がると、可能な限り早く歩いてカフェを出た。エントランスに戻り暗証番号でドアを開くと、すぐエレベーターへ。