クールな外科医のイジワルな溺愛
ごめんなさい、黎さん。あなたに迷惑はかけられない。
借りている部屋に戻ると、すぐに荷造りを始めた。もともと少ない荷物で転がり込んだため、全部詰め込んでもスーツケースひとつと旅行カバンひとつに収まった。
合鍵は落ち着いたら麗香さんに返しに行こう。名刺に書いてあった勤務先の病院を訪ねれば会えるはずだ。
靴を履いて、ふと振り返る。ほんの少しの間だったけど、この部屋に私の幸せが全部つまっていた。もっと、ずっと、黎さんの隣で笑っていたかった。
喉の奥からこみ上げてくるものを無理やり飲み下す。深く息を吸い、思い切って部屋のドアを開けた。
「……で、どうして私の部屋に?」
ナミ先輩が顔を歪めてこちらをにらむ。
「だって、だって、前のアパート知られてるから……」
黎さんのマンションを出た私が転がり込んだのは、ナミ先輩の部屋だった。長ーい事情を説明すると、ナミ先輩はため息をつく。
「気が動転して家出してきたってわけね。早く彼氏んとこ帰りなさいよ」
小さなテーブルの上に、飲みかけの缶チューハイを置く先輩。もう夜なので、ノーメイクで楽そうな部屋着を着ている。
「帰れないですよ~」
私も普段飲まないお酒を御馳走になり、酔いが思ったより早く、そして強く回ってしまったみたい。体から力が抜け、テーブルに突っ伏す。