クールな外科医のイジワルな溺愛
『おやすみ。いい夢を』
黎さん……。
このまま連絡先は全て消去、あるいはブロックすべきなのだろうけど、指が動かない。決心がつかないまま、アラームだけセットして携帯を枕元に放った。
黎さんと過ごした日々は本当に楽しかった。お父さんが亡くなってから無味乾燥していた生活が、とても甘く温かいものに変わった。
いい夢を見させてくれてありがとう。おやすみなさい。
まぶたを閉じると、すっと一筋涙が頬を流れた。これからどうなっていくのか、見当などつくはずもなかった。
数日後。
「ちょっと芹沢さん」
仕事中、課長に手招きされてしまった。おそるおそる近づくと、課長は下の方にメガネをずらしたまま私に書類を差し出す。
「これ、間違ってるんだけど」
「えっ! も、申し訳ありません」
差し出された書類は、たしかに私が作成したもの。普段はしないような間違いを犯していることがすぐにわかった。
「ここ最近おかしいんじゃない? 仕事なんだからさ、ちゃんとやってもらわないと困るよ」
「はい……」
「早く直して」
目も合わせず、ぶっきらぼうに言うと、課長は自分のパソコンに向き直る。
「すみませんでした」
会釈して、その場を後にする。デスクに戻ると、大きなため息が出た。