クールな外科医のイジワルな溺愛
マンションを出ていって二日後、黎さんから着信とメッセージが来た。学会から帰ってきたらマンションから私と私の荷物が消えているから、びっくりしたらしい。そりゃそうだよね。
黎さんは仕事が忙しいせいか、嵐のように着信やメッセージを残すことはない。ずっとリアクションをしないでおいたら、その数は日に日に減ってきていた。
ちゃんとしたお別れをしないでも、人ってこういうふうに自然消滅していくものなんだなあ……。
そんな風に感じながら、治っていく膝と反比例するように心は大きな風穴が空いたように元気がなくなっていた。
そのせいか、最近仕事で基本的なミスばかりしている。理性では仕事はちゃんとやらなきゃと思っているのに、心がついてこない。私は大きなため息をついた。
昼休みになり、久しぶりに経理部の外に出ることにした。いつもはデスクで休憩を取ることが多かったけど、今日は気分転換をしよう。
黎さんと出会う前にたまに利用していた、地下の売店の近くにある薄暗い自動販売機スペースに向かう。そこには自動販売機が何台かと小さなテーブルが二つ、イスは合計八つあるだけ。
狭いし暗いし仄かに下水のにおいはするし、なにより携帯の電波が入らないのでダントツで人気がない場所だ。
売店で買ってきたおにぎりを開け、もそもそ食べている間に自販機に飲み物を求めてくる人はいた。けれど、そこで座って休憩を過ごそうとする人は私以外にいなかった。