クールな外科医のイジワルな溺愛
身分違いか……。
はっきりと言葉に出され、妙に納得した。
結局、黎さんと私じゃ身分が違うってことか。民主主義の国に生まれたはずなのに、おかしな話だよまったく。
あの母の存在が私と黎さんの障壁になりそうな予感はしていた。こんなに早いとは思わなかったけど。嫌な予感って当たるんだなあ。
「お願いだから、少し放っておいて」
急いでおにぎりを口に入れ、お茶で流し込む。席を立つと、司に手をつかまれた。
「ごめん、怒った?」
当たり前でしょ。人間は本当のことを指摘されると腹が立つ生き物なんだから。返事をせずに相手の手を振り払う。
「彼氏と別れたとしても、すぐに誰かと付き合おうなんて気にはなれないから」
それだけ言い捨てて、逃げるようにその場から立ち去る。司が追ってくる気配はなかった。
司と付き合い始めた時はそれなりに楽しかった。緊張することもなく、バカな話ばっかりして笑いあってた。
それはそれで幸せだったけど、黎さんとの日々が不幸だったとは思わない。お姫様のような扱いをしてくれたからとかそういうことじゃなく、私が望んでいたのは、黎さんみたいな心の大きさだったんだと思う。
言葉にしなくても、包みこんでくれる優しさが黎さんにはあった。
意地っ張りで可愛くない私でも、甘えさせてくれる。そんな彼といるとドキドキもしたけど安心もした。
ああ……やっぱり私は、黎さんが好きだなあ。
午後からますます元気をなくした私は、ますます仕事がはかどらなかった。