クールな外科医のイジワルな溺愛

「そろそろ彼のマンションに帰った方がいいんじゃない?」

隣のデスクから、ナミ先輩が呆れたようにこっそりと声をかけてくる。

「大丈夫ですから」

そろそろ、元のアパートに帰るか、他の引越し先を探さなきゃ。いつまでもナミ先輩に負担をかけられない。

いっそ仕事も辞めて、母に見つからないような離島に引っ越そうか。そこでのんびりとおばあちゃんになるまで暮らすのも悪くないかも……。

離島で暮らすプランを考えていたら、時間内に仕事が終わらなかった。

私、バカだ……。

さっさと先に帰ってしまったナミ先輩。残された私は残業を少しして会社を出た。

日中はほとんど鳴らない携帯を取りだす。不在着信も未読メッセージもないことにホッとしつつ、少しの寂寥感を覚えた。

自分から離れたくせに、相手からのコンタクトが途絶えた途端、突き放されたような気持ちになるなんて、自分勝手にもほどがあるよね。

「離島、離島……」

黎さんのことは考えないようにして、離島への移住ってどうすればできるのか、携帯で調べよう。私は画面を凝視したまま、地下鉄の駅まで歩き出す。

そういえばこの前見たテレビで、マレーシアだかどっかに移住すれば、安い家賃で高級マンションに住めるし、すぐに日本語でできる仕事に就けて幸せに暮らせる、みたいな特集を見たな。

それもいいかも。日本でのしがらみを全部捨てて、海外で現地人に愛されて普通の生活を送るの……。


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